【オーストラリア栄養士が徹底解説!】LGBTQIA+ 性の多様性・マイノリティーについて考える。栄養サポート・カウンセリング【管理栄養士編】

日本の栄養士・管理栄養士教育課程で学ばない/ 管理栄養士も知識不足シリーズ第3回目。

近年の日本でも、LGBTQIAや性的のマイノリティなど、性の多様性について、

以前比べて徐々にオープンになってきているようにい思いますが、皆様はどのように感じますか。

筆者自身、オーストラリアの大学で学ぶまで、LGBTQIA+の方に対しての栄養サポートについて、倫理的・実践的に学ぶことは一度もありませんでしたし、どことなく触れてはいけない雰囲気があり、相手に対しての配慮どころか、患者さんやクライアントさんのプライベートを尊重した上で、通常のように何も変わらず、栄養カウンセリングをしても特に問題はないと言う解釈でした。

ですが、大学院で学んで気付かされた、“それは時と場合によって違う”ということ。

自分自身の反省点と、何か実際の現場で役にたってもらえればと、今日はLGBTQIA・性の多様性・マイノリティーについて考えていきたいと思います。

今回の記事でシェアしたい内容は、あくまでも医療・栄養サポートにおいて、生まれ持った身体的な性別と、個人を位置付ける性別は少し異なることを踏まえて、LGBTQIA+という言葉を使わせていただきます。

  • 医療関係者や栄養士・管理栄養士の人に、特に参考にしてほしい内容ですので、専門用語や難しい内容を含みます。
この記事でわかること

医療・栄養サポートをする上で

  • 患者さんやクライアントさんがLGBTQIA+・性的マイノリティであり、
  • どのような点に配慮し、気をつけなければいけないのか
  • どのような点に焦点をあてて、栄養カウンセリングをすすめるべきか
  • 若い世代や思春期世代のカウンセリングで配慮すべきこと
  • トランスジェンダーの方の栄養カウンセリング(ホルモン療法を合わせて)
Contents

日本社会において LGBTQ+ への注目と先進国とのギャップ

日本でのメディアや一部で取り上げられている“LGBTQIA+の方に対する理解を深める”キャンペーンや運動は、表向きは徐々に変化しているように感じます。しかし、筆者が住んでいるオーストラリアを含め、ジェンダーや人権についての先進国と比較すると様々なところで、明らかな差や違いを日々感じます。

それは、例えば、教育現場であったり、職場環境であったり、婚姻ができるか否かであったり、社会的な配慮だったり、医療サポートであったり。

世界と日本のギャップ

その例として、2021年の行われた世界調査(図11)の中で、日本のゲイまたはレズビアンの友人・または同僚がいると回答した人は、たったの7%でした 

この数値は、世界の先進国と比べた時に、いかに日本が個人の性についてオープンにしにくい保守的な国であるのか、をはっきりと示しているかな、と思います。

図1:コミュニティ内での性的・性別の位置付けを世界各国で比較

教育現場での変化

2015年に文部科学省が「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を全国の小中高校に通知したこと2をきっかけに、小中高校での性的マイノリティへの配慮は学校保健の課題と認識されてきているようです。

ただ、筆者個人的には、性同一性障害に関わる生徒だけでなく、一個人としての性のアイデンティティや個性を尊重した指導のあり方、対応が必要であり、それは学校の先生だけの責任でもないですよね。

後ほど詳しく説明しますが、成長期であれば本人含めた家族、学校の教諭、保健教諭、地域の医療スタッフ等、様々な連携ができて初めて、本人へのサポートにつながるものだと思います。そこには、しっかりとした、学生全体への教育が絶対に必要であり、他の生徒も、しっかり理解をする必要があります。性のマイノリティを持つことは、個人の性格と同じように単なる個性の一つとして見られるような風潮にしていかないと、いじめや孤立につながる原因になります。

日本の性教育もそうですが、幼少期の段階では学校では不適切だから教えない。という方針をとっている日本政府。現代の情報がありふれた時代に生きる若者にとって、すでに2024年になろうとしている今、若い世代から、しっかり教育をしなければいけないと思います。

医療サービス

その一方、日本の医療機関におけるLGBTQIA+ である患者さん、あるいは LGBTQIA+である医療従事者の可視化、教育体制は未だ進んでいないのが現状です。

日本の栄養教育課程をはじめ現場でも、人種の多様性だけでなく、この分野についても諸外国と比較すると、相当な遅れをとっており、学校でも習わなければ、現場でも学ぶ機会がほとんどなく、指導できる管理栄養士や医療者が不足していることは間違いありません。

日本の医療サービスは、世界から見ても恵まれていて、健康保険に加入していれば、誰でも平等に医療サービスを受けられる国です。

例えば、性転換手術を行った方であれば、ある程度大きな医療機関や大学病院において、しっかりとしたカウンセリングや医療サービスを受けられるかもしれません。ですが、

  • 性転換はしないけれど、ホルモン注射だけしている。
  • 自分のボディイメージに対して自信がない。
  • 成長期で、成長を遅らせるホルモン治療をしている。
  • 性のマイノリティをもっていて、メンタルヘルスの問題も抱えている

このような方はどうでしょうか。性のマイノリティを抱えた患者さんは満足した医療サービスや栄養サポートを、通常の方と同じように、必要な時に管理栄養士からアドバイスをもらいたいと感じた時に、そのサービスを受けられているのでしょうか?

管理栄養士がLGBTQIA+の患者さんに会うきっかけがとても少ないように感じるのは、先ほども述べたように、本人がオープンにできない・言えない・言いにくい・等の日本の社会的問題点です。

医療サービスの中でも、本人が管理栄養士にわざわざ、オープンにしないことも大きいのかな、と思います。また、この分野がまだまだ発展していない日本では、医師の管轄下で栄養指導も行われており、栄養士個人が担当をする機会が非常に少ないと思います。

しっかりと知識を持った管理栄養士から、ホルモン治療との合わせて栄養面でのアドバイスがもらえる、クルニックやサービスが日本全国どこでも地域レベル(東京はあるかもしれませんが。)で行えるかといったら、おそらく、NOでしょう。精神科に特化した管理栄養士が日本に少ないのも、日本の現状です。

専門家に相談にしにくい・出逢えないとなると、知人や同じ境遇のコミュニティの中で情報を手探りで探し、誤った情報が一人歩きし、適切な医療サービスが受けられないことで、ますますLGBTQIA+や性的のマイノリティの方が医療サービスを受ける際の医療格差につながります。

LGBTQIA+・性のマイノリティー者への医療・栄養サポート

ジェンダー・アファーミング ケア (Gender-affirming care)

ジェンダー・アファーメーション(Gender Affirmation)とは、自分が思う・感じる・本当のジェンダーでの自分らしく生きていくことに関する行動と可能性の幅についての総称です。3 

すでにある研究結果によると、性における多様性をもつ個人は下記のようにさまざまなリスクとハンディを抱えています。

  • メンタルヘルスの問題 (e.g. うつや不安症、自殺願望、自死) を抱えている割合が2.5倍以上高い4
  • 精神的ストレスを抱えている割合が3倍以上高い4
  • フードセキュリティの問題を抱えている割合が高い(35.4%) 5
  • 摂食障害、身体醜形障害(BDD:Body Dysmorphic Disorder)の問題を抱える割合が4.6倍以上高い 6,7
  • 誤った治療などの提供により、ヘルスケアやサービスを受けることに抵抗がある (70%) 8

性のマイノリティを抱えた多くの方が、メンタルヘルスの問題だけでなく、医療機関の受診やサービスに対して抵抗感があったり、不審感を抱いています。このことを考えると、管理栄養士も明らかにこれに当てはまるのでは?と思います。

例:クライアントさんや患者さんがホルモン治療を受けていて、管理栄養士にそのことを言えなかった:

この数年でかなり体重増えていますよね。血液の数値も変化していますよね。何か生活改善に取り組まないとだめですよ!

例は極端ではありますが、医療機関や生特定保健指導現場等で、一方的にアドバイスしている管理栄養士も多いのでは?と個人的な経験から、首を傾げます。

食事や健康に関するアドバイスや提案も、多様性への理解だけではなく、管理栄養士の知識そもそもを上げていかなくてはなりません。ジェンダー・アファーミング ケアをすることは、性のマイノリティを抱える人々への健康への平等と公平を提供し、彼らのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上だけでなく、命を守ることにつながります。

では、栄養アセスメントで気にかけるべきことは何か?

  • 社会的状況について: e.g. 社会的に個人の性をオープンにしている、医療サービスを受けているかなど
  • 精神的状況について : e.g. メンタルヘルスの医療介入やサービスが必要かなど
  • 問題行動について: e.g. ボディイメージ(筋肉質になる、体重減少 )など
  • 医療的治療について: e.g. ホルモン治療 など
  • 手術介入について:e.g. 性転換手術など

本人が、管理栄養士にオープンに打ち明けてきた場合は、上記のことに意識を向けて栄養カウンセリングをし、仮に本人が打ち明けなかったとしても、医療に携わる専門家として、管理栄養士一人ひとりが本人と向き合い本音を打ち明けられるような、信頼関係や態度も大切です。

先ほども申したように、この辺りの栄養指導や栄養カウンセリグについては、日本ではおそらく精神科やカウンセリング域の医療従事者がメインに勉強され実践されており、専門外の管理栄養士が学ぶ機会がほとんどありません。ですので、いざ栄養の問題に直面した際に、頼れるエキスパートやマニュアルが日本ではなかなか見つからないと思うので、必ず、“患者さん本人が中心”となり、他の医療者と連携することがとても大切です。 

またLGBTQIA+や性的のマイノリティのセミナーや活動に興味を持ったり参加して、当事者の話を聞いてみるというのもおすすめです。

ホルモン製剤の影響を考える(大人)

トランスジェンダーの患者さんやクライアントさんの中には、服薬をされている方も少なくありません。

性の転換を行うにあたり、服薬を開始すると生涯にわたり飲み続けなければいけないものもあり、その結果、血液数値も変化してくる場合があります。

図3:ジェンダー・アファーミングケアにおけるホルモン治療 とリスク7

また、性転換手術前と術後で、どちらの性に合わせて栄養介入をするべきか、という流れです。(図4)

ジェンダー・アファーミングケア(性転換)における栄養介入はいつか?

図4:ジェンダー・アファーミングケア(性転換)における栄養介入の流れ7

日本と欧米では、ファローアップの流れが違うかもしれません。ですので、この辺りは医師をはじめとする他の医療者と情報交換を円滑に行いながら情報の共有を必ず行うようにしましょう。

今回は、特に栄養ケアについては大人のLGBTQIA+や性的のマイノリティの方への考え方を中心に記載しました。思春期や子供の場合は、成長期と重なるため、成長曲線を使いながら成長を見守りつつ治療することが優先されます。ホルモン治療のやり方や方法が大人とは違う場合があるため、今回は記載しておりません。

まだまだ保守的な日本の医療現場ですが、医療スタッフがスキルアップをして学び、LGBTQIA+や性的のマイノリティについての理解を深めサポートしていく・そして自由に堂々と自分の性について語ったり・オープンにしたりすることができるようになっていくと、ケアを必要とする人々への安心感や心のサポートにもつながります。

生まれ持った性だけが、本来の性別とされるのではなく、皆一人ひとりが心地よいと思える・自分の性別を自分で選べる世の中に。日本の性に関する全体的な意識や環境・システムが、いちはやく諸外国に追いついてほしいと願っています

  1. 6 charts that reveal global attitudes to LGBT+ and gender identities in 2021 (2021) World Economic Forum, https://www.weforum.org/agenda/2021/06/lgbt-gender-identity-ipsos-2021-survey/, accessed 22 November 2023.
  2. 藤井ひろみ (2016) LGBTを対象とした健康教育:米国看護研究者による LGBT コミュニティでの健康教室の実践から(Health education for LGBT: Practices of health education by American nurse scientist in San Francisco LGBT community), 神戸市看護大学.
  3. TransHub, ACON n.d., What is gender affirmation?, TransHub, viewed 11 March 2024, <https://www.transhub.org.au/101/gender-affirmation>.
  4. May 13, P & 2021 n.d., Snapshot of Mental Health and Suicide Prevention Statistics for LGBTIQ+ People, LGBTIQ+ Health Australia, viewed 11 March 2024, <https://www.lgbtiqhealth.org.au/statistics>.
  5. Understanding the Nutritional Needs of Transgender and Gender-Nonconforming Students at a Large Public Midwestern University n.d., viewed 11 March 2024, <https://www.liebertpub.com/doi/epdf/10.1089/trgh.2019.0071>.
  6. Parker, LL & Harriger, JA 2020, ‘Eating disorders and disordered eating behaviors in the LGBT population: a review of the literature’, Journal of Eating Disorders, vol. 8, no. 1, p. 51.
  7. Nutrition considerations in the transgender and gender‐diverse patient n.d., viewed 11 March 2024, <https://aspenjournals-onlinelibrary-wiley-com.ezproxy.uow.edu.au/doi/epdf/10.1002/ncp.11049>.
  8. Seelman, KL, Colón-Diaz, MJP, LeCroix, RH, Xavier-Brier, M & Kattari, L 2017, ‘Transgender Noninclusive Healthcare and Delaying Care Because of Fear: Connections to General Health and Mental Health Among Transgender Adults’, Transgender Health, vol. 2, no. 1, pp. 17–28.
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